Complete text -- "季刊『ココア共和国』vol.18"

05 December

季刊『ココア共和国』vol.18



 以前、秋亜綺羅氏の『ひらめきと、ときめきと』をいただいたときに、「ああ、こんなやさしい童話のようなことが書けるって、いいなぁ」と思い、とても感動して妻に「読んでご覧ん」と渡しました。確か、それは東京へ向かう新幹線の中だったと思います。いつも、彼女は、詩集を読んでも、「詩はわからない。」と言い、特段、感想は言わない。私が書く詩のようなものに対しても、まったく興味を示さない。でも、いつも本ばかり読んでいます。それは、人間の生きることの意味についての「答え」を探しているかのようです。事実、彼女の読む本のタイトルには、「よりよく生きるためには」とか「悩みの解消法」とか、「人生の楽しみ方」といったタイトルが付いいたりします。そして、その行為は果てしなく、間断なく列車のように続いている。


 

 
 
 そこで、私は『ひらめきと、ときめきと』に生きることのヒントが、彼女がいつも読んでいる解説書の説明とかではなく、悟りのような言葉の啓示として書かれていると思い、彼女に渡したという次第でした。

 彼女の読んだ感想は、意外なものでした。彼女は、こう言いました。

 「暗い」と。

 いつもの「わからない。」という言葉でないことが私には意外でした。

 詩は、独りになって読むものです。言葉と一対一で対話するようなものです。妻が、「暗い」と言ったことは、彼女の心の中に詩の言葉が、どれほどか入ったことではなかろうかと思います。私の言葉は、まったく彼女に入らないのにです。

 詩の言葉との対話は、孤独な自分を、さらに確認する辛い体験となったのではないかと思います。平たく言うと、「ひらめき」とか、「ときめき」とか、飛躍のある言葉は、その言葉の羽根が見える人と、見えない人がいて、それで決定的に飛べる人と飛べない人がいるということで、飛べない人は無力を感じてしまうのではなかろうか。さらに、詩を、希少価値として際立たせていることは、絶対的に後者(飛べない人)が多いということではないだろうか、と思います。平たくないですね。

 これは、極、希な一例ですね。

 で、季刊『ココア共和国』vol.18です。

 冒頭、小林稔「記憶から滑り落ちた四つの断片」は、旅行記である。それも、忘れてしまった思い出を呼び覚まして、再構成したものである。であるから、全くの虚構である。如何にも、そのことが現実のことであるかのように書かれている。そして、それが事実として読めてしまうから、「なるほど」という感想で終わってしまう。ただ、第1章の「一、聖バヴァン聖堂」の中の「ガン」という言葉が気になった。最後の行の「胸の奥を針で刺されたような痛みに、思わず身震いした。」ということなのかも知れない。でも、「飛べない」な。

 木下龍也「きのうの事件・事故・自己」は、短歌。短歌として読め、ということだろうが、そんなこと言わなくてもいいような気がする。前提を取り払えば、落書きとさして変わらない。だから面白いのかも知れないが、そう思うのは「飛べる人」だけだろう。

 岡本啓「ポリフォニー」は、感覚が素晴らしい。私は「飛んだ」。

 高橋英司「恋愛コスパ」は、袋小路である。とてもスピード感があって、破綻なく読めた。面白かった。ただし、最後に「お粗末」という出口を書いてしまっている。果たして、いいんだろうか。「オチ」があると落ち着かない。落下しそうだった。いや、してしまった。

 草間小鳥子「レイニー」は、とても楽しい詩です。今にも雨が降りそうで、わくわくしてくる。時間の経過を感じることができた。それは、つまり読んでいる私が「生きている」ことを瞬間でも感じることができたということあるから、この詩に出会えたことに感謝したい。しかし最後の「すこしだけ未来の話をしよう」は、余計だ。危うく、落下しそうになった。

 為平澪『機械 −悲しい重力−』は、本当にそうだと思った。絶えず、地球にいる限り、重たいものを感じて生きなければならない。だから疲れる。できることは機械のように淡々と生きることなのか知れない。一字一句からそのことがヒシヒシと伝わってきた。

 最後に、秋亜綺羅「死は生のなかにしか存在しないのだから」は、「死んだこと」、「戻れない」、「夜があった時代」「さようなら」、「閉じ込められて」、「転げ落ちる」、「もう拾えない」、「とっくに死んでいるよ」、「欠落」、「無意味」、「不在」、「いないのに」、「逃げるべき場所」、「失調」、「不調」、「終わる」、「はじまらない」といった、いわゆる否定的な言葉で構成されている作品です。その言葉達から「飛ぼう」としている作品なのではないかと思います。飛べるのかどうかは、あなたには羽根が見えるか?それとも見えませんかと言われているようですね。

03:17:49 | tansin | | TrackBacks
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