Complete text -- "佐藤幸雄『眠られない人々のために』"
25 October
佐藤幸雄『眠られない人々のために』
今年も夏が訪れ、まぶしい太陽に照らされる自分の身体が、何故か、いつもより疲労を感じていた。
そんな時に、佐藤幸雄氏から詩集『眠れない人々のために』が送られてきた。僕は、知人を通じて彼が重い病気に犯されていることを聞いていたから、直ぐに詩集の感想を書き送ろうと思い、詩集が届いた直後の家族との夏の旅行に、この詩集を携えて、出かけた。
雷鳴が轟き、空がどんより暗くなり、時々、稲光が大きなガラス窓に反射するホテルのロビーで、深いソファーに身体を沈め、ゆっくりと詩集を読み続けた。そう、詩集の題名に触発され、深い眠りに陥るように。
この詩集に感じたのは、そこから先に行けない硬いものの存在でした。夜、柔らかなホテルのベッドに横たわったときに、どこまでも落ちてゆく感覚に襲われ、深い眠りについたのですが、気持ちよく眠るためには、どこかでカチッと身を固めくれるものが必要です。人間は何もない中では、不安定で、自分がなくて、どこからどこへ行こうとしているのか分からないものです。
その硬いものとは、自分が信じる何かでもいいのでしょうし、人から与えられたお守りのようなものでもいいのでしょうし、自分の欠点のような限界のようなものでもいいでしょう。
とにかく、何かがないと、自分という存在が宙に浮くというか、存在しなくなるということを漠然とした不安として感じてしまうことがあります。いや、そんなことはない、これはこうなんだ、こういうことなんだと、必死に言葉で話しかけてくる。詩集『眠れない人々のために』は、そんな言葉の集まりです。
詩集の最後の作品「とこしえ」の最後の部分を引用させていただきます。
・・・前略・・・
風が吹いても寒くもない
寒くはないが暖かいわけでもない
愛さないが憎まない
健康ではないが病気にもならない
所有したものもすべて不要物
こうしたことはとこしえに続くが
とこしえもない
今日は嵐の予報で満たされている時間だ
「とこしえ」最終部分
この否定を否定する肯定力の強さは、生きることへの力強い意思の表れです。それもどこまでも持続する営みです。
13:08:03 |
tansin |
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