Complete text -- "佐藤幸雄『めろめろ迷路』"
22 July
佐藤幸雄『めろめろ迷路』
佐藤幸雄氏の作品は、一関jから出ている『地層』でよく目にすることがあった。そして、懇意にさせていただいている関茂氏が同人として活躍している『詩想』でもその名を拝見することがあった。一度、回生で詩の朗読会を行ったときに、聴きに来ていただいたこともあった。だから、そんなに知らない詩人ではないという思いがある。しかし、ここに改めて詩集を読むと、如何に彼の詩のことを知らなすぎたのかということを痛感した。
これが最初の詩集出るとは意外であったが、それだけにこの『めろめろ迷路』で、彼の詩業のおおよそがわかるということなのだろう。第一印象は、心象を直接的な言葉で表現しようとする思いが強いな、ということである。とても、積極的である。饒舌といってもいいかもしれない。それは、詩集最後の作品「丘線の果て」を読むと強く感じる。この長編詩から一部を引用しよう。
・・・前略・・・
距離だけが
絶え間なく希望のようにつらなる
長い独白の重なりが
何一つ成就することはない だからこそ
地平を求め 誰一人信じない虚像の姿を捧げて
今日を刻む
この世界のあらゆる物と物象に
きらめく固有の名をあてがおう
陽や砂丘 石やかげろうの映像たち
夥しく湧き起こる存在する物らの声
指標ともならない未明の広がりの後ろから
光明のヴェールを通して
信仰のように燃え上がる
彼らの叫びは決して破壊することができない
だから 身体は安住の地を得ることもない
・・・後略・・・
「丘線の果て」部分
この部分だけを切り取ることは、作者に取って心外だろうが、「何一つ成就することはない」とか「身体は安住の地を得ることはない」という否定的な表現が、饒舌になればなるほど全体を覆い尽くす。佐藤氏にとって、詩とはどういう存在なのか、とても興味がある。人間が生きる行為が、何かを追い求めるものであるならば、まさに佐藤幸雄氏にとって詩は、それを具現する手段である。そして、作者の中に、渦巻く感情の卵のような、熱いの情熱があり、迷路のような行き場を見失いよそうな危うい光がある。
その危うさが、時に美しい作品を作り出す。それは表題作「めろめろ迷路」であるだろうし、私が最も気に入った「パチンコ屋の恋」である。最後に、「パチンコ屋の恋」から引用させていただく。
なんということだ
隣あわせに座ったパチンコ台のしらないアバサンと
恋に落ちたのだ
向かいあうこともなくよりそって
無言のまま運命を賭けあい
密かにもつれあう視線の隅で放物線の乱れを絡ませあう
わたしたちの恋
ゆれるこころのほつれがが弾け
吸い込まれる穴の奥へ導く無限の期待よ
音と光の点滅とその断裂のなか
回る回るとろけるわたしたちのゆくえ
たどる明日の未来も
昔を取り合うこともない
ただ今だけの恍惚
・・・後略・・・・
「パチンコ屋の恋」部分
12:24:00 |
tansin |
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