Complete text -- "詩誌『a's』vol.36"
04 December
詩誌『a's』vol.36
仙台市在住の佐藤洋子さんから詩誌『a’s』vol.36が届きました。ちょっと、不思議なのは新田さんの名前がないこと。それだけならいいのですが、前号発行の時に、これからは新田さんが私に送ってくると言われていました。けれど、送り主は依然として佐藤洋子さんです。
それは、それでなにがしかの理由があるのでしょう。でも大したことではありません。ということで、「さてと」と声を出して1ページ目から読み始めました。冒頭の作品は、堀内靖夫さんの「起つねえさん」です。
ねえさん
ここに居るのか
無口のままで
泣かずにいるのか
跳べない接ぎ木になって
詩「起つねえさん」冒頭の第一連
ここまで読んで、「接ぎ木」が「跳ぶ」という状況がどうしても想像できませんでした。その後の詩行に、なにか言葉が繋がり想像が広がる手がかりがないか探しましたが、跳べない接ぎ木になった起つねえさんが、「心の芯を揺らしているよ」(作品の最後の行)ということ以外にどうも理解が及びませんでした。作者の思いはどこかにあるのでしょうが、その正体を感じることができませんでした。詩は、難しいということで片付けましょう。
次、橋場仁奈さんの「飛んで跳ねて」は、最初の行に「茅葺き小屋の戸をあけて」というフレーズから始まります。私の中では、茅葺きの家は大きいものと決まっています。最低でも一家族が住めるに十分な大きさの家を想像します。「小屋」とは、粗末な作業小屋を想像します。どうして「茅葺き」の「小屋」でなければならないのか。ちょっと、立ち止まって考えてしまいました。
小屋の中で「にわとりが飛んで跳ねて」いる状況はわかるのですが、どうして狭い小屋の中で命を持つものたちが、飛んで跳ねて、息もできないほど狂うのだろうか。むむ、どうでもよいことだと思うのですが、私にはそれ以上読み進めることができませんでした。ことは切実なのかもしれませんが、やはり、詩は難しいということで片付けましょうね。
最後に、佐藤洋子さんの「おかえり」です。前号での彼女の作品は、とても素敵だった。言葉に重力がなく、まさに音だった。それがこっちに伝わることでしっかりと重さを持った言葉になった。そう、軽さを持つ言葉は、身軽に心の中にスーッと飛んでくる。今号の「おかえり」は、彼女にとっては力作のような気がします。それだけに、なんかちょっと力が入り込んで、見ただけでとても重たそうな言葉が並んでいます。
カミさん、
ね、カミさーん
「バンザイ」ってそれ
海がいちどきに来て二本の足が奪われたとき
腕の幼な児を救助の掌に渡した
わたしが陸で挙げた最後のことばです
コエはわたしのものだったか、ひとりのわたしのコエというより それは
繋がるたくさんの陸のものたちの息づかいのようだったが
わたしたちがミジンコやミドリムシだったよりもずっと前のものたちが
初めて陸に辿り着いた歓びの記憶のコエのようなもので
陸を夢見るものたちの背後から来る、艶
艶艶祈りです
詩「おかえり」冒頭の十二行
この詩行から私が想像できる状況は、津波が襲いかかってきて、足を取られ、抱いていた幼児をやっとの思いで救助の人に託して、海に呑まれた「カミさん」が最後に「バンザイ」と言ったという理解になります。そこに不思議な点が二つあります。一つは、どうして死にゆく人が「バンザイ」と叫ぶのだろうかと言う点、そしてもう一つが救助の人が、「掌(てのひら)」というとても淡くて小さな存在だということです。そこで、私の理解に混乱が生じます。いや、理解などする必要がない、詩は感じるものです、と言われるのでしょうが、それにしても、その後に続く結構長い文章は、その説明にしかなっていないような気がします。気がするだけなのだから、そうでない可能性は高いです。そう思いながら、こんな文章を書いている。なぜ、このような作品になったのか、それは冒頭に書いたように力みすぎたのだろうなと思います。
それで、話はここで終わりません。その説明文が、とても良いのです。天の邪鬼といわれそうですが、引用した冒頭の詩行は、無くても良いと思いました。むしろ、邪魔です。冒頭の詩行があるおかげで、中のとても素敵な言葉が、ただの説明文に読めてしまいます。
つまり、この作品は、第二連(ちょうど、ページの切れ目なので、第一連の最後の4行なのか、第二連なのか判然としないのですが)から始まっても良かったのではないか、いや断然その方が良い。それが、佐藤洋子の時空を漂う音であり、それがまさに詩なのだと思います。
そのようなものたちに包まれて わたしは
皮膚の欠片をはらりはらり
人の形象の欠片をはらりはらり そのように
わたしはわたしをゆっくりと脱いでいった
詩「おかえり」第二連
00:29:29 |
tansin |
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