Complete text -- "秋亜綺羅詩集『透明海岸から鳥の島まで』"

18 June

秋亜綺羅詩集『透明海岸から鳥の島まで』

 秋亜綺羅氏には,限りなく見えない色彩,限りなく意識に登らない言葉,限りなく存在の影が映らない姿で詩を書いて欲しい。そう・・・輪郭のない言葉で詩を書いて欲しい。それが,私が秋氏に期待することである。

 つまり,秋氏の書く詩には,意味を込めないで欲しい。わかりやすい例えで言えば,東日本大震災に対峙しても,するりと通り抜けて欲しい。多くの命や財産が失われた大震災に対して,辛い体験をした人が数多くいる。そして人間として感じること・考えることを持つだろう,また無意識にズレを負ってしまうことはあるだろう。しかし,それは誰しも逃れられないことである。問題は,それを表現しようとすることに走ってしまう,ということにある。





 今,世間では,数多くの震災に係わる行為が行われている。そして,マスメディアは,それを率先して取り上げている。この状況は異常である。「異常」とは,「間違い」ということではない。つまり,私は今,異常時にいる。原田勇男は,現代詩手帖で,東日本大震災以後,詩は変わってゆく(変わらなければいけない)ようなことを書いているが,それは大きな勘違いである。そんな大それたことを語る資格など誰にもない。一人の人間として生きてゆくのであれば,さらに今だからこそ謙虚であるべきである。強いて語るなら,誰も変わらない,変わってはいけないと書くべきである。異常時という舞台を作り上げ,その上で躍ってはいけない。(言葉足らずかもしれないので追記するが,「変わらないこと」も困難な生き方である。その結果,その人にしか表現できない見事なエンボスが現れる可能性がある。)

 東日本大震災に対して真っ正面から対峙した詩を書いている詩人に和合亮一がいる。彼は,震災直後,思いやまれずツイッターで表現行為を行った。私は,それは感動的なことだと思った。私にはとうていできない。素直に凄いと思った。しかし,その行為は,その瞬間瞬間の出来事である。その後の一連の作品,詩集等は,もう「凄い」とは言えない。現代詩の持つ宿命と言える袋小路状に入ったままである。和合亮一も,震災という舞台の上で躍っているだけである。やがて,舞台が取り除かれたら,それでお終いである。

 話が逸れた。私は,秋亜綺羅氏の詩のことを書いているのだ。そう,秋氏には震災に遭ってこんな詩ができた,などとは書かないで欲しい。言葉遊びをしているのであれば,種明かしは必要ない。詩の言葉だけで勝負すべきである。そして,くどいが,意味のない言葉を書いて欲しいと私は思っている。できれば,「なにもない」ことで見事な「詩」を表現して欲しい。

 秋氏の詩集『透明海岸から鳥の島まで』を読んでゆくと,濃淡が感じられる。それは,誰の詩にも感じることであるが,言葉の重さを感じる場所と,軽さを感じる場所がある。私は,秋氏の詩では,濃淡は見せて欲しくないと思う。何も見えない,ということで良い。デッサンではないのだから,存在感など必要ない。他の詩人と比べれば,秋氏の詩はかなり濃淡のない透明な表現をしているが,それは他との比較で浮き出てくる特徴であり,大して評価すべきことではないと私は思っている。秋氏にしかできない表現で考えれば,かなり,いや全く物足りない。

 秋氏については,気になることがある。ネット上やその他の新聞,雑誌で詩集『透明海岸から鳥の島まで』の評論・感想のたぐいが多く露出しているが,寺山修司の名の下に語られることが多い。若しくは,秋氏が若い頃に寺山修司に認められて活動していた時期に知り合った人達のとの関連(その人達自身の思い)で語られることが目につく。つまり,秋氏の作品のみで純粋に語る人は皆無に等しい。これがいわゆる「詩壇」という人間性を抹殺する恐ろしい目に見えない圧力,力の元凶の姿である。どの世界にも,このような集団化する無意識が存在する。これらを否定することが秋氏のすべきことである。寺山修司に名付けてもらった名前など捨てるべきである(改名せよと言っているのではなく,その名付け親を客観化する意識を持って欲しい。)。それでなければ,寺山修司を到底超えられない。これは,(本人が望む,望まずに)寺山修司を超える可能性(文学の分野で)を秋氏は持っていると私が信じているから,こう書いているのだ。

 最後に誤解されるかもしれないので補足として書かせていただく。ここで私は,秋亜綺羅氏を貶めているつもりは毛頭ない。逆に,心の奥底から最大限の褒め言葉を書いているつもりである。ここまで,反論,異議,無視等を覚悟しても,独りよがりに,秋氏のことを書いたのは,そして書きたいと思ったのは,それだけ秋亜綺羅氏の行為に魅力を感じているからなのである。


 

19:34:31 | tansin | | TrackBacks
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