Complete text -- "季刊『ココア共和国』vol.10"

29 July

季刊『ココア共和国』vol.10





 きっちりと、年4回の発行を守っている。梅雨明けにままだ遠い、曇天の日に、鮮やかなクリーム色の表紙に、アップリケのような画が貼られて、とても気持ちのよい詩誌が届きました。
 主宰の秋亜綺羅氏の行為については、vol.8の紹介文で書いたので改めて、書きませんが、60歳を過ぎても、若々しい感性を持っており、そのみずみずしさに、改めて感服です。で、作品は、石井萌葉の『ワルツのために』と望月苑巳の『テーブルの下の二十一世紀』が飛び抜けてよかった。


 石井萌葉の『ワルツのために』は、ワルツの拍子に乗って、言葉が踊っている。ワルツのために自分が存在するように、自分がワルツになっている。この言葉で納得させるレトリックは、お見事だ。どんな不存在にも対抗できるだろう。夢遊病者が、突然、現実の中に呼び覚まされ、意識が戻ることで、この甘味なワルツと自分とのダンスは終わってしまうのが惜しい作品です。最終の二連を紹介します。

   その二拍のための一拍がある
   その一拍のための二拍がある
   音の中に、ワルツがある
   私の顔に、ワルツがある

   今年の私はワルツで出来ている
   気がつけば周りはごみだらけ

             詩「ワルツ」最後の二連

 望月苑巳「テーブルの下の二十一世紀」は、人生のスナップ写真を、少々、アンリ・カルティエ=ブレッソン風に知的で、美しい陰影を施したものし仕立て上げ、それを自己の小さな秘密部屋となる机の下に隠しこんで、林檎という姿形、匂い、味覚で包み込んだ、アップルパイをひっくり返して、アップルでパイ生地を包んだような作品です。少々、くどい書き方をしましたが、作品自体は、とても爽やかです。林檎の甘酸っぱい香りが、爽やかに漂っています。風も吹いています。そう、読後に、生きているという実感を持てる作品です。第3連を引用させていただきます。

   少しだけ酸味を強め
   酸っぱくなった分だけ人生の道理を分解した気がして
   愉快になる
   体積が増えた分だけ
   地球の水が溢れ出す。
   慌てて弟が泳ぎだしたので
   洪水が起きる
   優しいテーブルの下の出来事だ。

             詩「テーブルの下二十一世紀」第三連

 この二つの作品は、ても生き生きとした生命感の溢れる作品だと感じました。

09:58:03 | tansin | | TrackBacks
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