Complete text -- "寄稿誌『郡山の四季 風草』86号(終刊号)"

09 July

寄稿誌『郡山の四季 風草』86号(終刊号)




 昭和56年から仙台の郡山から発行を続けてきた寄稿誌『郡山の四季 風草』が30周年記念号で終刊となった。雑誌を主宰している田中きわ子さんにとっては以前から決意していったことだったようだが、周囲の人々には驚きだったようだ。当然、自分も驚いた。『郡山の四季 風草』は、田中きわ子さんがほとんど一人で原稿を集め、その原稿の入力作業を行っている。30年で86号ということは、毎年約3冊を出していることになる。1冊のページ数が80ページを超える量の冊子を30年間も一人で出し続けたエネルギーに驚くとともに畏敬の念が生じてくる。最終号には回生にも寄稿いただいた伊藤豊蔵さんがお亡くなりになった詩人佐藤幸雄氏の思い出を「詩人・佐藤幸雄のこと」と題して寄稿している。それに「冬冬冬」と題した詩も載せている。

 田中きわ子さんは、短歌集や随筆集をを数多く出している。私は、彼女の短歌が大好きだ。エッセイに書かれている文章は女性としての優しさががとても爽やかに伝わってくるのだが、それが短歌になると彼女の精神の中にある強固な情念がとても強く感じられ、その生命の鼓動が伝わってきて身が震える思いをしながら読んでいた。時として、破壊的な力強さを感じることもあった。出版のたびに送っていただいたその作品のほとんどは、短歌を趣味としていた妻の父に渡して読んでもらっていた。義父は感想めいたことは言わなかったが、いつも喜んで受け取っていたから、感じるものがあったのではないかと思う。その義父も、もうこの世の人ではなくなってから久しい。義父の書き残した短歌を集めて短歌集を出したいと思いながら、年月が過ぎてしまっている。そんなこんな、色んなことを考えてしまうが、田中きわ子さんの短歌やエッセイが読めなくなると思うと寂しくなる。
 この終刊号では田中さんは「時空」という詩を掲載している。それはとても短歌的な作品で言葉に込められた想いが、空間と時間を自由に飛び交う凛とした作品に仕上がっている。全篇を掲載させていただく。


     「時空」

   トンネルを抜ければ青き海を背に
   サン・ファン・バウテスタの帆柱(マスト)見え初む
   
   空しさは
   風のごとしも まぼろしの
   航跡 五月の空を横切る

   時深く
   沈めて満つる海を抱く
   月の浦
   侍浜
   呉壺の浜

   風止みし空の深みに昇りゆく
   鳥の飛行の輪となる真昼


          「時空」全篇
12:19:51 | tansin | | TrackBacks
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