Complete text -- "白井秀『はぐれけり』"

07 September

白井秀『はぐれけり』




 平成19年7月19日発行の著者初の詩集である。著者は、詩誌『詩想』の同人として詩を発表してきたようだ。『詩想』は、20年以上も前から仙台で発行されている歴史の永い詩誌である。故に、一つひとつの作品の発表年月が記載されていないので、断言はできないが、かなり長い期間の間に書き続けられた時間の作品と思われる(ただし、白井氏が創設メンバーなのかどうかはわからない。)。



 冒頭から続く、「刑事」と題された10篇の作品群は、刑事という職業に携わる者が経験する精神的な苦痛や人間の儚さを、達観的に淡々と記述している。体験に根ざした言葉なのか、まるっきり想像の世界を描いているのか、推測しかできないが(『詩想』19号では、編集者がこの詩集の発行を予告しており、その文言の中で「白井秀という職業の人間が詩集を出したという情報を得たことがない」と記している。)、刑事という視点で言葉を発することに自体に新鮮さを感じるし、社会の闇の部分を明確な使命を持って生きることのかっこよさが漂って気持ちよく読める。ただし、詩という表現手段を使って書かなければならない必然が果たしてどれほどにあったのかにつては、疑問を感じる。
 後半の作品群は、「眩暈」と題された長編詩と表題作「はぐれけり」と題された7篇の作品群からなる。風という言葉が頻繁に登場する。風を感じることで、著者は何か日々、新陳代謝を繰り返しながら新しい思考を攫み取っているかのようだ。「風葬」という作品に強く惹かれた。短い作品なので、全編を引用させていただく。



   おしなべて
   
   ぼくらは

   風に晒されている

   ビルの谷間にうづくまり

   あえぎながら歩いているときも

   山の頂きに立ち

   清々しい光を受けているときも

   風は

   ぼくらの身体を通り抜け

   魂を風化させる

   風は

   ぼくらを生み

   やがて地に葬る

                  「風葬」全編


17:27:12 | tansin | | TrackBacks
Comments

佐藤幸雄 wrote:

白井の詩集へのコメントありがとうございます。白井は「詩想」の創刊同人ではありませんが、30年以上の同人ですので創刊同人の一人と言っても良いと思います。詳しいいきさつは同詩集の巻末「白井の詩についての覚書」を参照ください。
09/10/07 22:25:07

tansin wrote:

佐藤幸雄さま
コメントありがとうございます。
こんな廃棄物のようなサイトを開いていただき、感謝です。
そうですか、創設メンバーではありませんか。そうだからといって、私の詩への印象は変わりません。最初の、刑事物は、かっこいいですよね。
09/13/07 20:18:28
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